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2015年2月28日土曜日

2015年2月4日水曜日

幸福をもたらす社会とは(書評)

 「市民の幸福は諸君の努力によってもたらされる。」東京市長であった後藤新平の職員に向けた言葉である。昨年、舛添知事の就任挨拶の中でも引用された。では、われわれ行政職員が住民に幸福をもたらたすにはどう努力したらよいのであろうか。
 まず、政策と幸福との関係はどのようなものであろうか。『幸福の研究』(デレック・ボック著、土屋直樹ほか訳 東洋経済新報社)は、「揺籃期」とされる幸福研究のこれまでの知見や意義、議論を整理するとともに、政策対応の可能性について論じている。「政治・行政の質や国民の公職者に対する信頼と信用」が幸福をもたらしていることを明らかにするなど、示唆に富む一冊だ。
 日本の47都道府県を対象にして幸福度をランキング付けする試みもなされている。『全47都道府県幸福度ランキング 2014年版』(寺島実郎監修 (一財)日本総合研究所編、東洋経済新報社)では、60の指標を用いて、それぞれの都道府県の「強み」「弱み」を明らかにしている。特徴は、「幸せと感じるか」という主観的な調査ではなく、客観的なデータを指標としているところだ。なお、ランキングでは、一位は福井県であり、東京都は二位となっている。
 それでは、福井県はどのような社会なのであろうか。『希望学 あしたの向こうに』(東大社研、玄田有史 編、東京大学出版会)は、福井を「希望」という切り口から調査する。印象に残ったのは、女性の就業率及び出生率の高さが示すように、福井には「(仕事と出産の)両立を支える社会環境」が整っていることである。とはいえ、管理職の女性比率に関しては全国平均を下回り、また家事や育児について積極的に関わっていない現実があるなど課題も見られる。
 福井県が示唆するように幸福度の高さの要因の一つに男女共同参画社会がある。さらに推進していくためにはどうしらたよいのであろうか。『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』(シェリル・サンドバーグ著、村井章子訳、 日本経済新聞出版社)の主張はシンプルで、「多くの女性が権力のある地位に就く」ことである。その実現には、社会で築かれた障壁に加えて、女性の心の中にある障壁を打ち破ることが大切であるという。本書では、Facebook社の最高執行責任者というビジネスの第一線で働く著者自身が直面した体験に加え、統計データや研究成果を援用して「障壁」を考察し、対策を述べている。
 社会における幸福研究はフランスなどでGDPを超える新たな指標作りのために進められた。もちろん経済と現代の生活は密接に関わっており、幸福研究は一概に経済成長を否定するわけではない。それは、大きな経済成長を見込めない成熟社会において、政策の効果を最大限にしようという一つの知恵である。こうした新たな知恵を参照しつつ、努力の方向性を見定め、住民に幸福をもたらす社会の実現に私も貢献していきたい。