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2015年6月27日土曜日

成長する図書館

 「図書館は成長する有機体である。」インドの図書館学者・ランガナタンの言葉である。私には、図書館は本を借りるところ、静謐で学生が黙々と勉強しているところといったイメージしかなかったが、どうも様子が変わってきているらしい。
 「住みたい」とまで言われる図書館(「武蔵野プレイス」)など、日本各地の新しいタイプの図書館を『つながる図書館』(猪谷千香、筑摩書房)は誕生の背景を踏まえて紹介する。カフェの設置や書籍の販売など、TSUTAYAを経営するCCCと組んで話題になった佐賀県武雄市立図書館も登場する。同県において、「市民の図書館」として長年親しまれている伊万里市立図書館との比較で紹介されており、図書館と市民の関係について考えさせられた。昨今の図書館事情を概観でき、かつ日本各地の魅力的な図書館を知ることの出来る一冊だ。
 『TOKYO図書館紀行』 (玄光社)は、都内の魅力的な図書館について紹介している。行政が設置する公立図書館だけではなく、民間が設置する私立図書館や、雑誌に特化するなど特定分野に強い専門図書館などさまざまな図書館の種類があるのも東京の面白さである。本書をガイドブックとして図書館巡りをしたくなる。
 しばしば図書館は「無料貸本屋」と揶揄されてきた。こうしたことから、貸本業務を中心とした「教養施設型」のみならず、地域のための「課題解決型」を謳う図書館も現れている。『未来をつくる図書館』(菅谷明子、岩波書店)はニューヨーク公共図書館のビジネス支援などの取組を紹介する。ゼロックスのコピー機は同図書館から生まれたといわれるように、市民が夢を実現するための「孵化器」としての役割を果たしてきた。図書館の可能性を感じさせ、日本の図書館業界にも刺激を与えたという一冊だ。
 成長する図書館に対して、利用者側もまた成長しなければその効用を十分に享受できない。『図書館に訊け!』(井上真琴、筑摩書房)では、利用者目線による活用方法を解説する。そもそも図書館は馴染み深い施設であるものの、活用方法については知る機会があまりなかったのではないか。本書では図書館を賢く利用するための「お作法」や知っておくと便利な「業界用語」について、大学図書館職員の著者がユーモアを交えた文体で紹介している。
 鳥取県には県庁舎内に図書室があるという。それは、職員の福利厚生のためというよりも、職員が主体的に事業の施策立案するため、必要な情報の収集や活用支援を実施し、行政サービスの向上を後方支援することを目的としている。いわば、分権時代における「知の拠点」としての機能が図書館に求められているのである。図書館は単なるハコモノではない。時代や地域に応じて成長を遂げ、人々の教養を高めるとともに社会的課題の解決にも貢献する知的インフラである。