東洋経済新報社、2010年
BCGと聞けば条件反射で「ハンコ注射」を思い出し、続いて「ツベルクリン反応」の単語を連想してしまう私はビジネスマンとしては失格であろう。そのようなビジネス音痴な私の対極に位置するのが、BCGの日本代表、そしてシニアアドバイザーを歴任した内田氏である。ご承知のとおり、BCGはボストン・コンサルティング ・グループの略称であり、世界的に有名なコンサルティング会社である。本著は内田氏の豊富なビジネス経験から培われた思考法が紹介されている。
ビジネス音痴の私であるが、BCGがコンサルティング会社であることは知っていた。それは、例えば自己啓発本の分野では著名な岩瀬大輔氏の出身会社であるからだ。また、これまた自己啓発本の分野では著名な勝間和代氏がコンサルティング会社として有名なマッキンゼー出身であることも知っている。学歴と同じように、これらのコンサルティング会社出身であることが、有能であることの社会的なステータスになりえているのは何となく伝わってくる。例えば、前述の岩瀬氏は開成出身、東大出身、司法試験合格、ハーバードビジネススクール出身と並べてBCG出身として認知されている。絵に書いたようなエリート経歴の者が選ぶ就職先、それがコンサルティング会社なのである。
さて、著者の内田氏自身が述べているように本著は「問題発見に力点を置いた本」(P233)である。また、本著のタイトルでもある「論点思考」とは、「『自分が解くべき問題』を定義するプロセス」(P31)である。なぜ、問題を定義することが大切なのか。それは学校での試験とは違って、「ビジネスの世界では誰も『あなたが解くべき問題はこれである』と教えてくれない。上司がいても、本当に正しい問題を与えてくれるかどうかもたしかではない」(P31)からである。正しく問題を定義した上で問題を解決しなければビジネスでは成果を上げることはできないのである。また、もちろん、これはビジネスの世界だけにはとどまらない。例として挙げられているのは元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏の行政分野での取組である。ジュリアーニ氏はニューヨークの治安回復に大きな成果を上げた人物である。ジュリアーニ氏は次のように「論点思考」を行った。「いきなり凶悪犯罪を減らすことはできないし、それより小さな犯罪を徹底的に取り締まったほうが簡単だし、結果として街が安全になる。」建物の窓が壊れているのを放置したままにするとそれが関心の低さのサインとなり、犯罪を誘発するという割れ窓理論に基づき、ジュリアーニ氏は軽微な犯罪も見逃さずに取り締まった。結果として、在任期間中、ニューヨーク市の殺人事件は3分の2に減り、全体の犯罪件数も約半分になったという。
本著はビジネスに限らず、行政分野でも十分応用可能な思考法を教えてくれる。俗な言葉でいえば、「仕事のやり方」ということになろうが、どんな世界でもやはり一流の人間の方法は真似したくなるものである。そうした意味でも仕事について改めて問い直しを行い、これまでの自分の仕事の仕方について反省をする良い機会となった。
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