朝の五時過ぎに目が覚める。
窓から外をみると、路面は濡れているが雨は降っていないようであった。
本日は決行、との旨のメールを打つ。
朝七時、立川駅に集合。
声をかけた七人のうち、四人が集まった。
よく来たな、と会う顔それぞれが思ってる。
なるほど、事前にも雨の予報だし、この分厚い雲は見事に雨が降りそうである。
立川駅から奥多摩行きの電車に乗る。
いつも通勤で使っているので見慣れた風景であるが、どうも知り合いと一緒だと、どこか田舎に行くような小旅行気分に浸れる。
車窓の風景は次第に住宅街だけとなり、山が近づいてくるに従って、その密度が薄くなる。
早起きしたせいからか、眠くなる。
目的の「鳩ノ巣駅」の近くまでしばし寝た。
起きると、すっかり山である。
駅から駅の間も長い。
トンネルまである。
鳩ノ巣駅に到着。
以前、鳩ノ巣駅をゴールに登山をしたことがあるが、駅以外はあまり思い出せなかった。
たぶん、道も違ったのだろう。
鳩ノ巣あたりは、あきる野出身の私がいうのもあれだが、本当に東京とは思えないのどかな雰囲気がある。
とてもポジティブな意味で。
マンガ日本昔話や日本人の遠い記憶の中の田舎の心象風景がそのままあるようだ。
山里、なのである。
登山開始。
そこそこ急で、結構疲れる。
単に苦しい、という疲れではなく、気怠いような疲れである。
足が重い。
周囲は霧に包まれている。
もののけ姫の森のようである。
しばらく歩くと、カエルがいた。
今にも雨が降りそうな、というかすでに数時間前には降ったようで、地面も空気も湿っているためカエルにはもってこいの気候である。
拳を一回りも二回りも小さくしたサイズのカエルだが、触るにははばかられるシルエットをしている。
ちっさいミドリのカエルは好きだが、土と一体化しそうな、カエルは苦手である。
どことなくグロテスクである。
でもそれがかえって興味をそそられたりして、つい見入ったりもする。
しばらく登り続ける。
正直、じんわりと辛かった。
ふと、思ったこと。
「何で山なんか登ってるんだろう?」
登るのが楽しいから?
つらいのが楽しいから?
登ったという達成感ともうやらなくていいという優越感を得るため?
どれも違う。
何でだろう。
もしも、この世に自分だけしかいなかったら山に登っているだろうか?
そんなことも考える。
見栄とか虚栄心とかをなしにして、本当に自分がやりたいことってのを自分に問いかけるってのも意外と難しいことだったりする。
案外周囲に流されて気づくことだってあるし、それは別に悪いことでないような気がする。
ただ、それは安易なことで、楽なことで、か弱いものである。
そういうことを大っ嫌いなのが村上龍という作家であって、自立のためにタフであり続け、ものすごいエネルギーをもってしまう存在だ。
つい最近、村上龍のエッセイを、読んだからこんなことも思ったのだろうか。
山登りの前半はあまり覚えていない。
記憶に残っているのは川苔山の近くまできて、平坦な道へ出たところだ。
とはいえ、平坦な箇所はすぐに終わり、
相変わらずの急な下り、そして登りだった。
とりあえずの目標の峰まで行って一息つく。
人けもなくて、こじんまりとしているところだけど、それがかえっていい。
悲しむらくは曇りのため、景色が全く見えないことである。
たが、そんな天気だからこその味わいもある。
帰りは楽しかった。
この時点で、1時あたりで、9時に登り始めてから4時間を経過している。
半分まで来たというだけで気分が良い。
事実、帰りの道は下りが多く歩きやすくて気分も上々だった。
特に良かったのは川沿いを歩くルート。
これがしばしば続く。
まさに渓流というような川の脇に登山道がある。
木で出来た小さな橋を渡る。
橋から眺める渓流。
水が綺麗だ。
かつてはこうした渓流でヤマメやイワナを釣ったものである。
フライとかで。
そんなことを思い出したりして懐かしい気分になる。
ただ、釣りに関してはゲームの話であって、憧れに憧れているだけに過ぎない。
中学生の頃の憧れであった。
実際には釣りは、現在は悪名高いブラックバスしかやったことがない。
水が綺麗なため、ところどころ、ワサビを栽培しているところを見つける。
柵で囲まれていて、中には有刺鉄線まであって、それが徒然草にでてくるように「興ざめ」してしまったりするが、それもまた「をかし」、だ。
渓流沿いの登山道を抜けると、林道に出た。
舗装されている道。
ここからは長かった。
淡々と歩き続ける。
心を無にして。
やっとこさ、人家があるあたりまで行き、
ふとみつけた「なんとか茶屋」の文字。
店の外で、コケの生えまくった水槽で鯉を飼っているおばちゃんがいた。
聴けば、新潟の鯉だという。
新潟で地震があった時に安く買ったそうな。
話の流れで、店で売っていたビールを買う。
よくみると、そこは正確にはキャンプ場だった。
食堂とかもなくて、シンプルにコテージと川があるだけのキャンプ場。
素朴な感じとても好感を抱いた。
おばちゃんの身の上話を聞きながらのビール。
だいたいこういう時に話されるのは、息子の話と嫁入りしてきたという観点からの地域の考察である。
僕は割とこの類が好きである。
この茶屋からは少し歩いたところにバス停があって、しかも始発だったので座って出発を待った。
やっとゆっくり座れた。
青梅線の川井駅で下車する。
下山完了である。
そのまま、青梅線に乗って立川まで行って、飲み屋に行って締めました。
本当はピザが食べたかったのだけと、目当てのピザ屋は貸し切られてました。
それが心残りでした。
おしまい。
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